DREAMS COME TRUE

あれは確か1982年、とある地方の進学校の進路相談室での話である。

進路指導教師 「で、お前は、どの大学を目指しているんだ?」

女子高生(2年) 「私、ミュージシャンになります」

進路指導教師 「はあ、ミュージシャンだ? そんなもの、なれるわけ無いだろ!」

女子高生 「でも、中島みゆき先輩はなれましたよ」

進路指導教師 「あいつは特別だ。お前には無理だ」

女子高生 「でも、私はミュージシャンを目指します」

 

そして彼女は、その年、ヤマハポプコンの北海道地区大会で優秀賞を受賞、地元の新聞にも取り上げられた。高校は大騒ぎになった。「有言実行だ。すげー!」

 

ここまで書けば、勘の言い方なら分かるであろう。ドリカムの吉田美和の話だ。今ではドリカムが定着しすぎて、DREAMS COME TRUEの方が忘れられているかもしれない。

彼女は私の高校の一学年下だった。入学当時から「英語で作詞作曲ができるすごいのが入ってきた」と話題であった。英作文すら苦手な私には、中学で英語の曲を作るなんて信じがたい話だった。

彼女が所属していた軽音楽部(正式な名称は横文字だったが忘れた)の練習場は古い講堂だった。その裏の自転車置き場で帰り際、彼女の強烈なヴォーカルを良く聞いた。何が強烈かというと、声のでかさが、半端ではなかった。並のヴォーカルの声は、楽器の音に負けて良く聞き取れない。彼女の場合は、楽器の音の方が良く聞き取れなかった。多分、英語の発音も完璧だったと思う。高校生のリスニング能力でも、洋楽と同じように聞こえたのだから。

 

で、時が過ぎ去り、社会人になった頃、弟がドライブ中に「DREAMS COME TRUEって知ってる?」と聞いてきた。「夢は実現する」。変な宗教にでもはまったのかと思って聞いていると友達のいとこがやっているバンドでヴォーカルがすごいから伸びると思うと言って曲を聴かせてくれた。聞き覚えのある声だったが、まさかと思った。

徐々に人気に火がついて、週刊誌とかにメンバーの経歴が載るようになる。帯広柏葉高等学校出身。間違いない。彼女はついにミュージシャンとして世に認められたのだ。

 

何で、こんな話を思い出したのかというと、イチローが「目標を持って、コツコツ積み上げてきた結果、気がついたらこの場所にいた」様なことを言ってたのを聞いたからだ。似たような奴を知っている。きっと、同じような生き方をしてきたのであろう。

正しく、含蓄のあるグループ名である。「DREAMS COME TRUE

 

一応、応援はしているが、未だライブを見に行ったことは無い。高校の頃は、私と似たジャンルの洋楽のミュージシャンが好きだったのだと思う。しかし、今では、自分オリジナルなスタイルを確立している。

 社会人になった後も、高校、大学の頃に聴いていた音楽的嗜好を引きずるという。新しい彼女の音楽が、私の嗜好と離れたせいだと思う。彼女たちを応援してくれる人は本当にたくさんいる。私が応援しようがしまいが何の影響も無いだろう。だけれど、一応、応援はしている。あの声は、高校生の頃と同じなのだから。